あざみ野にて、昨日の夜を検証する。

高速道路の高架下を、真夜中に通るのがためらわれる。笑われるかもしれないけど、僕はあのオレンジ色の光が怖い。怪現象的恐怖ではなく、自らの業を見透かされているような、あの感覚。そいつを高架下から見るとますます恐怖心を煽られ、逃げ出したい気持ちになる。けれども今夜は、そこを通らなくてはいけない。

 

横浜のあざみ野駅から東へ向かうと、小さな川が現れる。早渕川という川だ。その川に沿って駅の反対側に向かって歩くと、高速道路が見えてくる。この高架下へ差し掛かるまでは、ceroを聴きながら肩で風を切っていたものだが…。

 

cero / 街の報せ

実際、この道にはceroの音楽がよく似合う。

 

さて、わざわざ怖い思いをしてあざみ野へ来たのは他でもない。「昨日の夜の検証」のためだ。一体何のことか?それは1週間前の6月8日、SFワークショップなるイベント(男6人が集まっただけの簡素なものだが)での一幕にさかのぼる。そこで僕たちは、文字通り「 SF的な世界観」で世の中の様々な未来に仮説を立てた。

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「科学技術が発達して人間が永遠に生き続けられるようになったとき、人は人でいられるのか?」や、「『距離』や『場』という概念が消失したとき、人はどのようにコミュニティを形成してゆくか?」など、様々なテーマで論じ合った。これらの問い対する答えを、映画に求めようというのが「昨日の夜の検証」である。映画を上映するわけでなく、特定の作品を肴にただ語り合うだけ。安直なタイトルと素朴な内容とは裏腹に、割と実りのあるものだったと思う。

 

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フライヤーまで作ってしまった。

 

会場となったのは、高架下を超え、大きな道路を一つ挟んだ先にあるカフェ『スナッグリー』。コンテナを改装した店舗で、規模は大きくないけれどアットホームで居心地の良い空間だ。

 

で、今回議論のタタキとしてセレクトしたのは、ジョシュ・トランク監督の『クロニクル』。

超能力を手にした、高校生のアンドリュー(デイン・デハーン)、マット(アレックス・ラッセル)、スティーヴ(マイケル・B・ジョーダン)は、自分たちの姿をビデオで記録することに。超能力を使い、他人がかんでいるガムを口から取り出したり、女子のスカートをめくったり、空中でアメフトをしたりと、退屈だった毎日を刺激的なものに変える三人。そんなある日、クラクションを鳴らして後方からあおってきた車を、アンドリューが超能力でスリップさせる。それを機に、彼は超能力を乱用するようになり……。(以上、シネマトゥデイより) 

映画「クロニクル」予告編

どの問いに対する検証かはさておき、実に示唆的な映画である。青春映画としてもよくできているが、本作には様々なメタファーが施されている。 例えば、「平等に与えられたテクノロジー」について。メインの三人をスクール・カーストで分けると、彼らはそれぞれ別の階層に属している。アメフト部のエースで次期生徒会長候補のスティーブが最上位、全てが平均点でワナビーなマットはミドルクラス、貧乏な上に友達も少ないアンドリューが最下層民だ。

 

この三人が同時に超能力を手に入れる。すると、どうなるか。階層が違えば文化も違う。文化が違えば価値基準も違う。そこから生じる綻びの描き方が、本作は実に見事であった。本作における「超能力」を、「テクノロジー」に置き換えても何ら違和感はないだろう。階級をそのままにテクノロジーのみが分け与えられても、そこには脆弱な利便性と、それによって生み出される脅威しかない。

 

本作におけるアンドリューは、乱暴に形容すると「良いヤツ」である。重い病気で床に伏している母親を思い、底抜けにクソッタレな父親の虐待に耐え忍ぶ。喧嘩も弱く、いじめっ子のウェインには常にいじめられている。それでも、彼から純粋な悪意は感じられない。悲劇的な結末は、まさに「力の暴走」であった。

 

善良なアンドリュー少年をして、このエンディングだ。個人的には、彼に非はなかったと思っている。悲劇の一端は、明らかにこの三人が別の階層にいたことにあった。アンドリューを除く他の二人は、「あるもの」を持っていたのだ。彼はそれを最後まで手に入れることなく、強大な力だけを獲得してしまった。「それ」とは、アメリカのハイスクールに限らず、多くのコミュニティに共通する普遍的なものである。この不平等が、今の世の中ではあまりに軽視され過ぎているように思うのだ。その状態のまま力だけが与えられても、待っているのはこの映画で描かれているような悲劇である。

 

なんだかまとまりのない文章になってしまった。結局検証らしい検証はできなかった気もするので、次回はもう少しちゃんと企画を練りたい。ということで、「昨日の夜の検証」でした。

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語らいの後、お店の外はすっかり明るかった。